【感染症ニュース】新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 専門家会議が重症者を優先する医療体制の構築を提言 医療体制崩壊を防ぎ重症者に十分な医療を届けるために
2020年3月26日更新
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国立感染症研究所で分離された <br />新型コロナウイルスの電子顕微鏡写真  (提供元:国立感染症研究所)
国立感染症研究所で分離された
新型コロナウイルスの電子顕微鏡写真  (提供元:国立感染症研究所)
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 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、欧米を中心とした世界的なパンデミックへの移行に伴い、海外から日本国内に流入する患者数が大きく増加していると推定され、それに伴って今後、国内の患者数も大きく増加していくことが予想されます。そうなった場合、医療体制の崩壊を防ぐため、医療機関の医療体制を大きく転換し、重症の患者がしっかりと治療される体制を構築していく必要があります。

各国の状況

 WHOの発表によると、2020年3月25日現在、世界の患者数は約414,000人、死亡者数は約18,400人を数えています。中国では、患者発生および死亡者数の増加は落ち着きつつあります。しかし、中国以外の地域での患者数が増加しつつあり、特にイタリア・スペイン・フランスなどのヨーロッパの地域で患者数の急増が見られています。

日本国内の状況

 日本では、1月中から約2ヶ月にわたって患者の国内発生が見られていますが、今のところヨーロッパ諸国のような患者数が急増している地域と比べて、患者数および死亡者数の増加は比較的緩やかです。今のところ医療体制の崩壊も危惧されていません。しかし今後、患者数が全国的に急増するようなことがあれば、死亡者数の急激な増加および医療体制の崩壊につながっていくことも十分に考えられるため、新型コロナウイルス感染症に対する国をあげた対策の手を現時点で緩めるべきではないと思われます。

 日本国内では、いくつかのクラスターの発生が見られていますが、今のところそこから大規模な流行につながることはなく、対処されているように見えます。しかし、クラスター発生から高齢者への感染が起こると、重症例や死亡例が出ることも珍しくはありません。中国の例でも言われていますが、この感染症は、年齢層や基礎疾患の有無によって重篤度が異なる場合が多く、特に発症後に重症化する可能性が高い高齢者層や障害を持った方々をいかに守っていくかということも対策の重要な要素であると思われます。

症状と経過について

 国の専門家会議によると、以下のことが言われています。

 中国からの2020年2月20日時点での報告では、感染が確認された症状のある人の約80%が軽症、13.8%が重症、6.1%が重篤となっています。また、広東省からの2020年2月20日時点の報告では、重症者125名のうち、軽快し退院したものが26.4%、状態が回復しつつある者が46.4%となっています。

 日本国内では、2020年3月18日までに、感染が確認された症状のある人758例のうち、入院治療中の人は579例おり、そのうち、軽症から中等度の人が337名(58.2%)、人工呼吸器を使用または集中治療を受けている人が46名(7.9%)となっています。また、150例(25.9%)は既に軽快し退院しています。また、2020年3月18日までに確認された死亡者数は29名であり、イタリアなどの国と比べて、入院者に占める死亡者数の割合も低く抑えられています。このことは、限られた医療資源のなかであっても、日本の医師が重症化しそうな患者さんの大半を検出し、適切な治療ができているという、我が国の医療の質の高さを示唆していると考えられます。

専門家会議が“重症者を優先する医療体制の構築"を提言

 専門家会議は2020年3月19日の会見の中で、“重症者を優先する医療体制の構築"を提言しています。

 専門家会議によると、重症者を優先する医療体制へ迅速に移行するため、地域の感染拡大の状況に応じて、受診、入院、退院の方針を以下のように変更する検討を進めるべきと判断したとしています。

 ・重症化リスクの高い人(強いだるさ、息苦しさなどを訴える人)または高齢者、基礎疾患のある人については、早めに受診する

 ・(現在は、まん延防止の観点から、入院治療の必要のない軽症者も含めて、感染症法の規定に基づく措置入院の対象としているが)入院治療が必要ない軽症者や無症状の陽性者は、自宅療養とする。ただし、電話による健康状態の把握は継続する

 ・入院の対象を、新型コロナウイルス感染症に関連して持続的に酸素投与が必要な肺炎を有する患者、入院治療が必要な合併症を有する患者その他継続的な入院治療を必要とする患者とする

 ・症状が回復してきたら退院及び自宅待機にて安静とし、電話による健康状態の把握は継続する

 ・また、症状が軽い陽性者等が、高齢者や基礎疾患がある人と同居していて家族内感染のおそれが高い場合は、接触の機会を減らすための方策を検討する。具体的には、症状が軽い陽性者等が宿泊施設等での療養を行うことや、同居家族が受診した上で一時的に別の場所に滞在することなど、家族内感染リスクを下げる取組みを行う

 専門家会議によると、重症患者に対する診療には、特別な知識や環境、医療機器を要するため、診療できる人員と資源を継続的に確保することが重要な課題です。そのため、一般医療機関のうちどの機関が感染者の受入れをするか、あらかじめ決めておく必要があり、その上で、関係医療機関の連携・協力の下、受入病床数を増やすだけでなく、一般医療機関の医療従事者にも新型コロナウイルス感染症の診療に参加していただく支援が不可欠だとしています。上記のような基本的考えに立って、地域の実情に応じた、重症度などによる医療機関の役割分担をあらかじめ決めておくことが重要だとしています。

 中国の例でも言われていますが、この感染症は、年齢層や基礎疾患の有無によって重篤度が異なる場合が多く、特に発症後に重症化する可能性が高い高齢者層や障害を持った方々をいかに守っていくかということも対策の重要な要素であると思われます。

 新型コロナウイルス感染症に感染し発病した場合、大半の例では軽症または中等症までで治っていくと言われています。一方、高齢の方や、糖尿病や呼吸器疾患などの基礎疾患を持った方々は、重症化する場合があると言われています。最も重要なのは、“重症化する可能性のある方々"ができる限り感染しないような環境を作り、万が一感染・発病した場合は、すぐに適切な医療が受けられるようにすることです。

 これが大切な理由は、日本国内における新型コロナウイルス感染症の流行を抑制し、たとえ流行が抑えられなくなっても、流行の開始・ピークを少しでも遅らせなければならないからです。こうした理解がないままでいると、医療機関に患者が殺到して地域の医療体制が崩壊し、重症者に十分な医療が行き届かなくなることによって、亡くなってしまう人が増加してしまいかねません。

 今後は、欧米を中心とした世界的なパンデミックへの移行に伴い、海外から日本国内に流入する患者数が大きく増加していると推定され、それに伴って国内の患者数も大きく増加していくことが予想されます。そうなった場合、医療体制が崩壊することを防ぐために、医療機関の医療体制を大きく転換し、重症の患者がしっかりと治療される体制を構築していく必要があります。また、ほとんど症状のない軽症例を、入院または隔離させる専用の医療施設や宿泊所などを設置し、ベッド数を増やしていくことも考慮していく必要があると思われます。最も重要なことは、医療体制の崩壊を防ぐことであり、また、急激に患者数が増えていくことを何としても食い止めていく必要があると思われます。

予防について

 コロナウイルスの感染経路は、飛沫感染と接触感染です。原則として空気感染はありません。最も重要な対策は、咳エチケットと手洗い・アルコール消毒など手指衛生を徹底することです。手洗いが大切な理由は、ドアノブや電車のつり革など様々なものに触れることにより、自分の手にもウイルスが付着している可能性があるからです。外出先からの帰宅時や調理の前後、食事前などこまめに手を洗いましょう。

■参考リンク:厚生労働省新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)

■参考リンク:厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の見解等(新型コロナウイルス感染症)

■参考リンク:厚生労働省新型コロナウイルス感染症についての相談・受診の目安

監修:大阪府済生会中津病院感染管理室室長 国立感染症研究所感染症疫学センター客員研究員 安井良則氏

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