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症状が落ち着いても引き続き注意 症状が落ち着いても引き続き注意
 国立感染症研究所の感染症発生動向調査週報2023年25週(6/19〜25)によると、ヘルパンギーナ患者の定点あたり報告数は5.79。前週から約1.29倍に増えており、7週連続の増加となっています。ヘルパンギーナは、発熱と口腔粘膜にあらわれる水疱性の発疹を特徴とした急性のウイルス性咽頭炎です。乳幼児を中心に夏季に流行する、いわゆる夏かぜの代表的疾患です。国立感染症研究所によると、患者の年齢は5歳以下 が全体の90%以上を占め、1歳代がもっとも多く、ついで2、3、4歳代の順で、0歳と5歳はほぼ同程度の症例が報告されています。

 口の中にできた小さな水泡は、やがて破れ、浅い潰瘍を形成するため痛みを伴います。

 そのため、お子さんが食事や飲水を拒否することがあります。予後は良好とされていますが、これからの暑い季節には、脱水症状に注意する必要があります。

感染症の専門医は…

 感染症の専門医で大阪府済生会中津病院の安井良則医師は、「各地でヘルパンギーナ警報が発令されています。しかし、流水石鹸による手洗いや患者の便を処理する場合に使い捨て手袋を使うなど基本的な感染対策を行っていれば、必要以上に神経質になり過ぎることはありません。一方で、口の中の痛みから、お子さんが食事や水を摂れなくなるのは見ていて可哀想だとおもいます。保護者の方は、お子さんが脱水症状にならないよう、お子さんを励ましながら、水分を摂らせてあげてください。

 また、幼稚園・保育園などで流行しているとき、保護者の方から園に『園で感染った!』とクレームが入るケースも耳にしますが、概ね、予後良好な病気です。成長の過程で、お子さんが免疫をつけていく機会だと思うしかありません。なりたくない病気ですが、たいていのお子さんは軽症で終わります。注意しなければならないのは、ウイルス性髄膜炎を起こすケースです。ぐったりしていたり、頭痛・おう吐や発熱がある場合は、特に注意が必要です。

 ヘルパンギーナに関しては、新型コロナの影響もあり、ここ最近、大きな流行がみられませんでした。感受性者がたまっているのが流行の原因と考えられます」としています。

症状

 2~4 日の潜伏期を経過し、突然の発熱に続いて咽頭痛が出現し、咽頭粘膜の発赤が顕著となり、口腔内、主として軟口蓋から口蓋弓にかけての部位に直径1~2mm 、場合により大きいものでは5mmほどの紅暈(こううん、皮膚が部分的に充血して赤く見えること)で囲まれた小水疱が出現します。小水疱はやがて破れ、浅い潰瘍を形成し、疼痛を伴います。発熱については2 ~4 日間程度で解熱し、それにやや遅れて粘膜疹も消失します。発熱時に熱性けいれんを伴うことや、口腔内の疼痛のため不機嫌、拒食、哺乳障害、それによる脱水症などを呈することがありますが、ほとんどは予後良好です。エンテロウイルス感染は、多彩な病状を示す疾患で、ヘルパンギーナの場合にもまれに無菌性髄膜炎、急性心筋炎などを合併することがあります。前者の場合には発熱以外に頭痛、嘔吐などに注意すべきですが、項部硬直は見られないことも多いです。後者に関しては、心不全徴候の出現に十分注意することが必要です。鑑別診断として、単純ヘルペスウイルス1型による歯肉口内炎(口腔病変は歯齦・舌に顕著)、手足口病(ヘルパンギーナの場合よりも口腔内前方に水疱疹が見られ、手や足にも水疱疹がある)、アフタ性口内炎(発熱を伴わず、口腔内所見は舌および頬部粘膜に多い)などがあげられます。

治療・予防

 国立感染症研究所によると、「特異的な治療法はなく通常は対症療法のみであり、発熱や頭痛などに対してはアセトアミノフェンなどを用いることもある。時には脱水に対する治療が必要なこともある。無菌性髄膜炎や心筋炎の合併例では入院治療が必要であるが、後者の場合には特に循環器専門医による治療が望まれる。特異的な予防法はないが、感染者との密接な接触を避けること、流行時にうがいや手指の消毒を励行することなどである」としています。

参照
国立感染症研究所 「ヘルパンギーナとは」

取材
大阪府済生会中津病院感染管理室室長 国立感染症研究所感染症疫学センター客員研究員 安井良則氏