半年以上前に更新された記事です。

夏かぜに注意 夏かぜに注意
 8月に注意してほしい感染症について、感染症の専門医で大阪府済生会中津病院の安井良則医師に予測を伺いました。流行の傾向と感染対策を見ていきましょう。

【2023年】8月に注意してほしい感染症! 専門医がコロナ「大きく増加」と予測 要注意は梅毒・腸管出血性大腸菌感染症など多数

【No.1】新型コロナウイルス感染症
 新型コロナウイルス感染症も患者報告数は、緩やかに増え続けています。

 2023年5月から、5類に移行しましたが、気がかりなのは、「XBB」系統への置き換わりが進んでいる事です。2023年6月16日に開かれた、厚生労働省の専門家会議に提出された資料によると、「XBB.1.16」の民間検査機関での検出が、2023年第21週(5/22-5/28)時点で、25.13%にのぼっています。現時点で、「他のオミクロンの亜系統と比較し公衆衛生上のリスク増加につながる証拠はない」とされていますが、重症化するかどうかなどの臨床データはじゅうぶんではない状況です。8月は、過去の流行データからも、感染者数は大きく増加することが予測されます。今後、感染者数がどのように推移するか、引き続き、注意が必要といえるでしょう。7月末時点で、勤務先の病院の入院患者さんも増えています。症状が悪化され搬送されてくるのは、ワクチン未接種の方が多い印象です。合併症の恐れがある方は、特に注意が必要です。一方、ワクチンを接種した後も、基本的な感染対策を続けるなど決して油断しないでください。体調不良の場合や医療機関・高齢者施設を訪問の際はマスクの着用は必須です。

【No.2】手足口病・ヘルパンギーナ
 ヘルパンギーナは、2023年第27週(7/3-7/9)に定点辺りの報告数が、過去10年で最多となりました。例年、7月にピークを迎えますが、流行状況からみて、8月も注意が必要です。

 口腔内できた水疱が潰れると、痛みを伴い、食事や水分を摂取することを嫌がるお子さんもいます。気温が高くなる季節ですので、脱水などにならないよう気を配ってあげてください。

 一部地域では、警報が発令されています。注意してください。

 また、ヘルパンギーナと同じウイルス属の手足口病は、エンテロウイルスなどを病原体とする感染症で、流行は夏に集中しています。3日から5日の潜伏期間の後に発症し、口の粘膜・手のひら・足の甲や裏などに、2~3ミリの水疱性の発疹が現れます。手足口病の感染経路としては飛沫感染、接触感染、糞口感染があげられます。保育園や幼稚園などの乳幼児施設における流行時の感染予防は、手洗いの励行と排泄物の適正な処理が基本となります。

 喉からウイルスが排出されるため、咳をしたときのしぶきにより感染します。感染者との密接な接触を避けることや、流行時にうがいや流水石けんでの手指衛生を励行することが大切です。

【No.3】RSウイルス感染症
 人口の多い首都圏でも増え始めており、中部地方から東日本は特に注意が必要です。7月末時点で、大阪などピークアウトの兆候が見られる地域もありますが、全国的に増えています。

 今後の流行状況には注視してください。

 RSウイルス感染症は、病原体であるRSウイルスによっておこる呼吸器感染症です。潜伏期間は2~8日、一般的には4~6日で発症します。特徴的な症状である熱や咳は、新型コロナウイルス感染症と似ており、見分けがつきにくいです。多くの場合は軽い症状ですみますが、重い場合には咳がひどくなり、呼吸が苦しくなるなどの症状が出ることがあります。

 RSウイルス感染症は乳幼児に注意してほしい感染症で、特に1歳未満の乳児が感染すると重症化しやすいです。お子さんに発熱や呼吸器症状がみられる場合は、かかりつけ医に相談してください。感染経路は、飛沫感染や接触感染です。ワクチンはまだ実用化されていないため、手洗い、うがい、マスクの着用を徹底しましょう。家族以外にも保育士など、乳幼児と接する機会がある人は特に注意が必要です。

【No.4】インフルエンザ
 インフルエンザは、インフルエンザウイルスを病原体とする急性の呼吸器感染症で、毎年世界中で流行がみられています。日本でのインフルエンザの流行は、例年11月下旬から12月上旬にかけて始まり、1月下旬から2月上旬にピークを迎え3月頃まで続きます。

 しかし、2023年は、第28週(7/10-7/16)時点でも、鹿児島県など九州地方を中心に患者数の報告があがっており、減りどまりをみせていません。流行の動向がつかみにくいため、注意が必要です。主な感染経路は、くしゃみ、咳、会話等で口から発する飛沫による飛沫感染で、他に接触感染もあるといわれています。飛沫感染対策として、咳エチケット。接触感染対策としての手洗いの徹底が重要であると考えられますが、たとえインフルエンザウイルスに感染しても、全く無症状の不顕性感染例や臨床的にはインフルエンザとは診断し難い軽症例が存在します。これらのことから、特にヒト-ヒト間の距離が短く、濃厚な接触機会の多い学校、幼稚園、保育園等の小児の集団生活施設では、インフルエンザの集団発生をコントロールすることは、困難であると思われます。

 学校が夏休み期間に入るため、減少していくと考えられますが、流行地域は注意が必要です。

【No.5】咽頭結膜熱
 咽頭結膜熱は、例年6月から7月にかけて流行がピークを迎える感染症ですが、北海道や群馬県で流行がみられます。症状は風邪とよく似ていますが、発熱、咽頭痛、結膜炎です。発熱は5日間ほど続くことがあります。眼の症状は一般的に片方から始まり、その後、他方に症状があらわれます。高熱が続くことから、新型コロナウイルス感染症とも間違えやすい症状です。吐き気、強い頭痛、せきが激しい時は早めに医療機関に相談してください。感染経路は、主に接触感染と飛沫感染です。原因となるアデノウイルスの感染力は強力で、直接接触だけではなくタオル、ドアの取っ手、階段やエスカレーターの手すり、エレベーターのボタン等の不特定多数の人が触る物品を介した間接的な接触でも、感染が広がります。特異的な治療方法はなく、対症療法が中心となります。眼の症状が強い時には、眼科的治療が必要となることもあります。予防方法は、流水・石鹸による手洗いとマスクの着用です。物品を介した間接的な接触でも感染するため、しっかりと手を洗うことを心がけてください。学校が夏休み期間に入り流行は落ち着くと考えられますが、注意を要します。

【要注意】腸管出血性大腸菌感染症
 腸管出血性大腸菌は、ウシ、ヤギ、ヒツジなどのひづめが二つに分かれているもの(偶蹄目)の腸管にすんでいる菌です。感染力が強いので、接触感染する可能性もあります。感染すると3~5日間の潜伏期間を経て、激しい腹痛を伴う頻回の水様性の下痢が起こり、その後、血便が出るケースもあります(出血性大腸炎)。また、発病者の6~9%では、下痢などの最初の症状が出てから5~13日後に溶血性尿毒症症候群(HUS)や脳症などの重篤な合併症をきたすことが知られています。主な感染経路は飲食物を介した経口感染であり、菌に汚染された飲食物を摂取することや、患者の糞便に含まれる大腸菌が直接または間接的に口から入ることによって感染します。腸管出血性大腸菌は、中心部まで75℃で1分間以上加熱することで死滅するので、食事の際はしっかりと加熱することが基本です。肉の生食や、生焼けで食べることは避けましょう。またバーベキューや焼肉などでは、生肉を扱った箸やトングなどは生食用のものと使い分けましょう。また、意外なところでは、ふれあい動物園などで、ヤギやヒツジから感染するケースもあります。動物と触れ合ったり、餌やりをした後は、必ず手を洗うようにしましょう。

【要注意】梅毒

 梅毒は、性的な接触(他人の粘膜や皮膚と直接接触すること)などによってうつる感染症です。原因は梅毒トレポネーマという病原菌で、病名は症状にみられる赤い発疹が楊梅(ヤマモモ)に似ていることに由来します。感染すると全身に様々な症状が出ます。

 2023年第27週(7/3-7/9)は、前年の同時期と比べ、2000例弱増えています。このまま増加が続けば、15,000例ほどになることが予測されます。性別関係なく、患者報告数が増えており、特に女性では、梅毒に感染したと気づかないまま妊娠して、先天梅毒の赤ちゃんが生まれる可能性があるので注意が必要です。妊娠中でも治療は可能です。ほとんどの産婦人科では、妊婦健診の際に血液検査してもらえます。妊娠したら必ず梅毒の検査を受けましょう。早期の投薬治療などで完治が可能です。検査や治療が遅れたり、治療せずに放置したりすると、長期間の経過で脳や心臓に重大な合併症を起こすことがあります。時に無症状になりながら進行するため、治ったことを確認しないで途中で治療をやめてしまわないようにすることが重要です。また患者本人が完治しても、パートナーも治療を行うなど、適切な予防策を取らなければ、感染を繰り返すことがあるため、注意が必要です。

感染症の専門医は…

 感染症の専門医で、大阪府済生会中津病院の安井良則医師は「新型コロナウイルス感染症の患者数は、梅雨明けの7月から8月に大きく増加すると予測しています。沖縄では、ピークアウトの兆候もありますが、他の地域は、これからも増えて行くでしょう。ピークは、お盆明けの8月下旬頃になると予測しています。どこまでの規模になるか予測はつきませんが、まだまだ注意が必要です。また、インフルエンザや夏風邪も流行っています。今回は、珍しく要注意が2つあります。例年、8月に患者報告が増える腸管出血性大腸菌感染症や性感染症の梅毒にも注意してください」としています。

取材
大阪府済生会中津病院感染管理室室長 国立感染症研究所感染症疫学センター客員研究員 安井良則氏