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不安な方は医療機関の受診を 不安な方は医療機関の受診を
 国立感染症研究所の感染症発生動向調査週報2023年第35週(8/28-9/3)によると、全国のマイコプラズマ肺炎患者の定点あたりの報告数は0.03。定点辺りの報告件数は、13となっています。流行はみられませんが、少ないながらも、報告があがっています。例年、患者として報告されているのは、14歳以下の小児・若い方が多く、その割合は80%です。一方で、成人の報告もみられます。今回、『感染症・予防接種ナビ』に寄せられたのは、58歳の方からの経験談です。

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マイコプラズマ肺炎とは…

 マイコプラズマ肺炎は、肺炎マイコプラズマを病原体とする呼吸器感染症です。初期症状は、発熱、全身倦怠、頭痛などで、特徴的な症状は咳です。初発症状発現後3~5日から始まることが多く、乾いた咳が経過に従って徐々に増強し、解熱後も長期にわたって(3~4週間)持続します。感染経路は、飛沫感染による経気道感染や接触感染によって伝播すると言われています。感染には濃厚接触が必要と考えられており、保育施設、幼稚園、学校などの閉鎖施設内や家庭などでの感染伝播はみられますが、短時間の曝露による感染拡大の可能性はそれほど高くはありません。

58歳 奈良県

 8月22日 起床時、のどの痛み エアコンをつけたまま就寝したせいかと思い市販の風邪薬を服用。軽い咳

 8月23日 6:30起床 37.5℃ 13:00 37.1℃ 出勤 20:00 37.4℃ 自宅で(新型コロナ)抗原検査 陰性。1日3回、市販の風邪薬を服用。咳がよく出る。痰は多くない。

 8月24日 6:30起床 37.5℃市販の風邪薬を服用 10:00 38.0℃ かかりつけ医院が休診日のため、発熱外来を受け付けている病院を受診。抗原検査 陰性 風邪と診断 処方薬(クラリスロマイシン錠・ピーエイ配合錠・カロナール錠) 13:00 37.8℃ 欠勤 20:00 38.0℃ カロナール錠服用 深い咳がよく出る。

 8月25日 6:30起床 37.4℃ 13:00 37.1℃ 出勤 咳が少し出るものの特に熱っぽさやだるさ無し。 20:00 38.5℃ カロナール錠服用

 8月26日 0:00 37.1℃ 2:00 39.3℃ 8:00 39.5℃ かかりつけ医院受診 コロナ・インフルエンザ検査 陰性 血中酸素濃度 96 レントゲン・血液検査でマイコプラズマ肺炎の疑いと診断 処方薬(ジェニナック錠・ミヤBM錠) 23:00 38.7℃ 食欲なくゼリー飲料とスポーツドリンクを少し飲むのみ 深い咳が断続的に出る。少し呼吸が浅い。

 8月27日 6:00 37.8℃ 12:00 37.4℃ 21:00 37.1℃夜中の咳がつらい

 8月28日 7:00 36.8℃ 病院受診 レントゲン・血液検査・抗原検査 血中酸素濃度 97 好中球が半減のため、抗生剤ストップ 処方薬(メジコン錠) 一日中37.0℃以下で安定 深い咳は続く

 8月29日 6:30 36.6℃ 病院受診 血液検査 好中球の数値回復傾向 深い咳、回数は若干減少

 9月1日 6:30 36.5℃ 病院受診 血液検査 好中球が正常値に 職場復帰許可 処方薬(メジコン錠)

 9月2日より職場復帰

 9月11日現在、浅い咳に変わりつつあるが、まだ治まらない。疲れやすく帰宅後はとてもだるく、30分ほど横になってから家事・食事をする状態が続いている。今のところ、家族や職場での感染はない。

感染症の専門医は…

 感染症の専門医で、大阪府済生会中津病院の安井良則医師は「マイコプラズマ肺炎ですが、今のところ、報告数が少ないながらあがっているものの流行はみられていません。マイコプラズマ肺炎は、咳や熱が出て、倦怠感を伴う症状が現れることがあります。咳は、他の症状が落ち着いた後も長く続き、1ヶ月近く続く方もいらっしゃいます。多くの方の症状は軽いですが、中には肺炎を引き起こす場合もあります。知りあいの医師も、人工呼吸器の挿管が必要な重い肺炎になったケースもありました。症状がおさまってからも、しばらく、しんどい期間が続くと思いますが、無理をせずゆっくり静養してください」としています。

治療

 抗菌薬投与による原因療法が基本ですが、「肺炎マイコプラズマ」は細胞壁を持たないために、β-ラクタム系抗菌薬であるペニシリン系やセファロスポリン系の抗生物質には感受性はありません。蛋白合成阻害薬であるマクロライド系(エリスロマイシン、クラリスロマイシン等)が第1選択薬とされてきましたが、以前よりマクロライド系抗菌薬に耐性を有する耐性株が存在することが明らかとなっています。近年その耐性株の割合が増加しつつあるとの指摘もあります。最初に処方された薬を服用しても症状に改善がみられない場合は、もう一度医療機関を受診していただくことをお勧めします。

診断

 特異的IgM抗体迅速検出キットが開発され、臨床現場において活用されてきています。幼児、学童の初回感染例では発病1週間以内では陰性を示すことが多く、また単一血清で高い抗体価であっても過去の感染の既往を示している可能性を否定できません。最近は、PCR法やLAMP法による遺伝子検出が次第に多くの検査機関で実施されるようになってきています。


引用
国立感染症研究所「マイコプラズマ肺炎とは」
取材
大阪府済生会中津病院感染管理室室長 安井良則氏