感染症の流行に適した季節に… 感染症の流行に適した季節に…
2024年1月に注意してほしい感染症について、大阪府済生会中津病院の安井良則医師に予測を伺いました。流行の傾向と感染対策を見ていきましょう。

【2024年】1月に注意してほしい感染症!インフルエンザ年明けも引き続き注意 コロナは増加予測新たな流行株への置き換わりに注視必要 要注意はマイコプラズマ肺炎

【No.1】インフルエンザ

インフルエンザは、2023年第49週(12/4-10)の全国定点報告で警報基準である30を超えています。これまでの流行状況について、多少の増減はあるものの、国内のインフルエンザの患者発生数は、2023年9月以降現在に至るまで増加傾向が続いており、引き続き注意が必要と考えています。間もなく、学校等が冬期休暇に入る事で、インフルエンザの流行は一旦落ち着きを見せると思われますが、1月に入って冬季休暇あけには患者発生数は再び増加していく可能性が高いと予測しています。過去の例をみると、12月にそれほど流行していなかった地域が1月には患者発生数が急増している場合が多く、注意が必要です。インフルエンザは、インフルエンザウイルスを病原体とする急性の呼吸器感染症で、毎年世界中で流行がみられています。日本でのインフルエンザの流行は、例年11月下旬から12月上旬にかけて始まり、1月下旬から2月上旬にピークを迎え3月頃まで続きます。しかし、今季はシーズン入り前から、一定程度の患者報告数があり、例年の同時期に比べると高い水準でのシーズン入りとなりました。一方で、地域差や増加の幅など流行の動向がつかみにくいため、注意が必要です。主な感染経路は、くしゃみ、咳、会話等で口から発する飛沫による飛沫感染で、他に接触感染もあるといわれています。飛沫感染対策として、咳エチケットや接触感染対策としての手洗いの徹底が重要であると考えられますが、たとえインフルエンザウイルスに感染しても、全く無症状の不顕性感染例や臨床的にはインフルエンザとは診断し難い軽症例が存在します。これらのことから、特にヒト-ヒト間の距離が短く、濃厚な接触機会の多い学校、幼稚園、保育園等の小児の集団生活施設では、インフルエンザの集団発生をコントロールすることは、困難であると思われます。引き続き、注意が必要でしょう。

【No.2】新型コロナウイルス感染症

12月末時点で、全国的な患者報告数は少ないものの、増加傾向に転じています。大阪府の定点当たり報告数は、他の地域と比べても更に低い状態が続いていましたが、第46週~第49週と4週間連続して増加が見られています。今後気温の低下と空気の乾燥と共に、患者発生数の増加は今後継続していくものと予測しています。冬期休暇あけの1月の厳寒期には患者発生数は、インフルエンザと同様に更に増加していくと予測されますが、新たな派生株の状況等によって変化していくものであり、流行規模の予想は現時点では困難です。
現在、国内で主流となっているのは、EG.5とその派生株からなるXBB系統です。しかし、2022年に世界的に主流を占めていたBA.2系統の派生株であるBA.2.86系統株が今夏以降日本を含めた世界各国で検出されるようになってきています。BA.2.86系統は、スパイクタンパク質に従来のBA.2系統とは30箇所以上、現在主流であるXBB系統とは35箇所以上のアミノ酸配列の変異を有しており、抗原性が大きく異なることより、ワクチンや既感染からの免疫逃避に優れている可能性が高いことが指摘されています。最近になって、米国CDCではBA.2.86からの派生株であるJN.1が国内で増加しつつあることをHP上で報告しており、日本国内においても、BA.2.86系統の増加が見られつつあります。今後、国内でも、このBA2.86系統への置き換わりが進むことが予測されており、2024年1月以降もBA.2.86系統の発生動向には注意していく必要があると考えています。

【No.3】A群溶血性レンサ球菌咽頭炎(溶連菌感染症)

A群溶血性レンサ球菌咽頭炎(溶連菌感染症) は、学校・幼稚園・保育園などでの流行が多くみられます。幼稚園・保育園・小学校など集団生活の場で、流行することなどから、一定程度、増えることは予測していましたが、余りにも急激に増加しているので、注意が必要です。今後、過去最高レベルの流行となる可能性もあります。特に、小学校低学年のお子さんや幼稚園・保育園のお子さんは、注意が必要でしょう。溶連菌感染症は、例年、冬季および春から初夏にかけての2つの報告数のピークが認められています。保育所や幼稚園の年長を含め、学童を中心に広がるので、学校などでの集団生活や、きょうだい間での接触を通じて感染が広がるので、注意しましょう。感染すると、2~5日の潜伏期間の後に発症し、突然38度以上の発熱、全身の倦怠感、喉の痛みなどが現れ、しばしば嘔吐を伴います。また、舌にイチゴのようなぶつぶつができる「イチゴ舌」の症状が現れます。まれに重症化し、全身に赤い発疹が広がる「猩紅熱(しょうこうねつ)」になることがあります。発熱や咽頭痛など、新型コロナの症状と似ており区別がつきにくいため、症状が疑われる場合は速やかにかかりつけ医を受診しましょう。主な感染経路は、咳やくしゃみなどによる飛沫感染と、細菌が付着した手で口や鼻に触れることによる接触感染です。感染の予防には手洗い、咳エチケットなどが有効です。冬期休暇期間に、いったん流行が落ち着くと予測していますが、年明けに学校が始まった後に、どのように患者数が推移するか見極めが必要です。

【No.4】咽頭結膜熱

咽頭結膜熱の患者報告数は、12月に、過去最高の流行をみせました。感染症の動向を、長年に渡り調査・分析していますが、このような動きは、今までありませんでした。咽頭結膜熱は、アデノウイルスを原因とする感染症です。症状は風邪とよく似ていますが、発熱、咽頭痛、結膜炎です。発熱は5日間ほど続くことがあります。眼の症状は一般的に片方から始まり、その後、他方に症状があらわれます。高熱が続くことから、新型コロナウイルス感染症とも間違えやすい症状です。吐き気、強い頭痛、せきが激しい時は早めに医療機関に相談してください。最近では、アデノウイルスの検査キットが普及したことも手伝い、発熱・咽頭痛・結膜炎の3つの症状が一度に出ない場合は、咽頭結膜熱ではなく、「アデノウイルス感染症」と診断されることもあります。感染経路は、主に接触感染と飛沫感染です。原因となるアデノウイルスの感染力は強力で、直接接触だけではなくタオル、ドアの取っ手、階段やエスカレーターの手すり、エレベーターのボタン等の不特定多数の人が触る物品を介した間接的な接触でも、感染が広がります。特異的な治療方法はなく、対症療法が中心となります。眼の症状が強い時には、眼科的治療が必要となることもあります。予防方法は、流水・石鹸による手洗いとマスクの着用です。物品を介した間接的な接触でも感染するため、しっかりと手を洗うことを心がけてください。

【要注意】マイコプラズマ肺炎

マイコプラズマ肺炎とは、肺炎マイコプラズマを病原体とする呼吸器感染症です。飛沫感染による経気道感染や接触感染によって伝播すると言われています。感染には濃厚接触が必要と考えられており、保育施設、幼稚園、学校などの閉鎖施設内や家庭などでの感染伝播はみられますが、短時間の曝露による感染拡大の可能性はそれほど高くはありません。潜伏期間は、2~3週間とインフルエンザやRSウイルス感染症等の他の小児を中心に大きく流行する呼吸器疾患と比べて長いです。初期症状として、発熱、全身倦怠、頭痛などが現れた後、特徴的な症状である咳が出現します。初発症状発現後3~5日から始まることが多く、乾いた咳が経過に従って徐々に増強し、解熱後も長期にわたって(3~4週間)持続します。抗菌薬投与による原因療法が基本ですが、「肺炎マイコプラズマ」は細胞壁を持たないために、β-ラクタム系抗菌薬であるペニシリン系やセファロスポリン系の抗生物質には感受性はありません。蛋白合成阻害薬であるマクロライド系(エリスロマイシン、クラリスロマイシン等)が第1選択薬とされてきましたが、以前よりマクロライド系抗菌薬に耐性を有する耐性株が存在することが明らかとなっています。近年その耐性株の割合が増加しつつあるとの指摘もあります。最初に処方された薬を服用しても症状に改善がみられない場合は、もう一度医療機関を受診していただくことをお勧めします。

感染症に詳しい医師は…

大阪府済生会中津病院の安井良則医師は「最も気がかりなのは、インフルエンザの流行です。1月に入り厳寒期となります。ウイルスなどの流行に適した時期となることから、感染症全般に注意が必要です。また、新型コロナウイルス感染症の患者報告数は、1月に入り増加していくと予測しています。気がかりなのは、BA2.86系統と呼ばれるスパイク蛋白に30ヶ所以上の変異を有する変異株が国内でも検出されていることです。今後、既存のXBB系統株に置き換わる可能性もあります。警戒を解くわけにはいかないでしょう。」としています。

取材
大阪府済生会中津病院院長補佐感染管理室室長 安井良則氏