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概要

 A群溶血性レンサ球菌咽頭炎(一般には溶連菌感染症と言われる場合が多いです)は、A群溶血性レンサ球菌によって引き起こされる感染症です。同菌は上気道炎や化膿性皮膚感染症などの原因菌としてよくみられるグラム陽性菌で、菌の侵入部位や組織によって多彩な臨床症状を引き起こすことが知られています。最も多く発生している急性咽頭炎の他にも日常的にみられる感染病態として膿痂疹、蜂巣織炎、あるいは抗菌薬による治療が発達する前によくみられていた病型として猩紅熱があります。その他にも中耳炎、肺炎、化膿性関節炎、骨髄炎、髄膜炎などをきたすことがあります。また、菌の直接の作用ではなく、感染後の免疫学的機序を介して、リウマチ熱や急性糸球体腎炎を起こすこともよく知られています。更に、発症機序、病態生理は不明ですが、軟部組織壊死を伴い、敗血症性ショックを来たす劇症型溶血性レンサ球菌感染症は重篤な病態としてしばしば問題となっています。A群溶血性レンサ球菌のほとんどは細胞表層に蛋白抗原としてM蛋白とT蛋白を有しており、これらの抗原性により、さらに型別分類されます。M蛋白には100以上の血清型が、T蛋白には約50の血清型が知られています。また、本菌は溶血毒素、発熱毒素(発赤毒素)、核酸分解酵素、ストレプトキナーゼなど、種々の活性蛋白物質を産生して細胞外に分泌し、種々の症状を起こすと考えられています。

疫学

 A群溶血性レンサ球菌咽頭炎はいずれの年齢でも起こり得ますが、学童期の小児に最も多く、3歳以下や成人では典型的な臨床像を呈する症例は少ないです。感染症発生動向調査によると、冬季および春から初夏にかけての2つの報告数のピークが認められています。この感染症は、通常患者との接触を介して伝播するため、ヒトとヒトとの接触の機会が増加するときに起こりやすく、家庭、学校などの集団での感染も多いです。感染性は急性期にもっとも強く、その後徐々に減弱していきます。急性期の感染率については兄弟間の感染が最も高率であり約25%(文献によっては50%も)と報告されています。以前に学校での咽頭培養を用いた研究によると、健康保菌者が15〜30%あると報告されていますが、健康保菌者からの感染はまれという説もあります。近年は溶連菌感染症に対する迅速診断キットが普及し、それによって診断方法が容易になり、報告数が以前よりも増加傾向にあると言われています。

臨床症状

 潜伏期は2〜5日ですが、潜伏期での感染性については明らかになっていません。発症する場合は突然の発熱と全身倦怠感、咽頭痛によって発症し、しばしば嘔吐を伴います。咽頭壁は浮腫状で扁桃には浸出液を伴っています。軟口蓋に点状出血がみられることがあり、更には特徴的な苺(イチゴ)舌(写真)が認められる場合があります。この苺舌ですが、発症早期には舌は白苔で覆われており、その後白苔が剥離した後で苺舌がみられます。発熱開始後12〜24時間すると点状紅斑様、日焼け様の皮疹が出現して猩紅熱と呼ばれる病態を呈することがあります。針頭大の皮疹により、皮膚が紙ヤスリ様の手触りとなる事が特徴的です。この場合、通常顔面には皮疹はなく、額と頬が紅潮し、口の周りのみ蒼白にみえる(口囲蒼白)と言われています。

写真:A群溶血性レンサ球菌咽頭炎による苺舌
(国立感染症研究所ホームページより:http://www.nih.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/340-group-a-streptococcus-intro.html

治療

 治療にはペニシリン系の抗菌薬やセフェム系抗菌薬の投与が推奨されており、投与期間はペニシリン系の場合は10日間、セフェム系の場合は5日間が推奨されています。これまでA群溶血性レンサ球菌咽頭炎の治療にはペニシリン系抗菌薬を第1選択薬としてリウマチ熱や糸球体腎炎の合併を予防するために10日間投与することが推奨されてきました。しかし、ペニシリン投与後にも15~20%程度の患者が当初感染した血清型と同じ型のA群溶血性レンサ球菌を保有し続けると言われています。これは投与期間が長期に渡るために服薬のコンプライアンスが不十分となってしまう場合が少なくないこと、周囲からの再感染、咽頭部に常在する他のβラクタマーゼ産生菌の影響、菌が細胞内でも生育できること、患部にバイオフィルムが掲載されていて薬剤が浸透しにくい場合があること、等がその理由としてあげられています。除菌が困難な場合には、βラクタマーゼ阻害薬が配合されたペニシリン系抗菌薬や、セフェム系抗菌薬の10日間投与が推奨されています。また、ペニシリンアレルギーがある場合にはエリスロマイシン等のマクロライド系抗菌薬の投与が行われますが、マクロライド耐性菌が少なからず存在しており、慎重な対応が求められます(表)。

感染経路

 主な感染経路は、発症者もしくは保菌者(特に鼻咽頭部に保菌している者)由来の飛沫による飛沫感染と濃厚な直接接触による接触感染です。物品を介した間接接触による感染は稀とされていますが、患者もしくは保菌者由来の口腔もしくは鼻腔由来の体液が明らかに付着している物品では注意が必要です。発症者に対しては、適切な抗菌薬による治療が開始されてから48時間が経過するまでは学校、幼稚園、保育園での集団生活は許可すべきではないとされています。

無症状保菌者への対応

 通常無症状保菌者から他者への拡散やリウマチ熱をきたす危険性は低いと言われていて、無症状保菌者に対する積極的な抗菌薬投与による除菌については議論が別れています。しかし、小児の集団生活施設においてA群溶血性レンサ球菌咽頭炎が集団発生した場合、既に相当数の保菌者が潜在しているために、発症者に対する適正な治療を行いつつ飛沫感染対策や接触感染対策に努めても患者の発生を速やかに消失させることはしばしば困難を伴います。以下の様な状況においては、無症状保菌者に対する除菌を考慮すべきとの報告もあります。

ア)A群溶血性レンサ球菌が集団発生しており、かつリウマチ熱や急性糸球体腎炎が複数例発生している場合

イ)適切な治療にもかかわらず、数週間に渡って同一の症例において複数回A群溶血性レンサ球菌による咽頭炎が生じている場合

参考文献
1.A群溶血性レンサ球菌咽頭炎とは.国立感染症研究所ホームページ
2.坂田宏:小児科における咽頭炎・扁桃炎:A群溶連菌感染症を中心に.口腔・咽頭科 23(1):11~16.2010
3.神吉耕三:予防投薬の適応と方法.小児科診療 11(47):1677~1682.2000
4.日常診療に役立つ小児感染症マニュアル2007改訂第2版.日本小児感染症学会編:東京医学社2006年11月15日発行
5.Control of Communicable Diseases Manual 19th Edition. An official report of the American Public Health Association: 2008
6.Communicable Disease Control and Health Protection Handbook the 3rd Edition. Hawker J. MD., Begg N. MD., et al: Blackwell Publishing Ltd. 2012

監修:大阪府済生会中津病院感染管理室室長 国立感染症研究所感染症疫学センター客員研究員 安井良則氏
更新:2015/5