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国立感染症研究所の2023年第51週(12/18-12/24)速報データによると、咽頭結膜熱の全国の定点あたりの報告数は3.31。前週の3.49から微減となりましたが、警報レベルとなる定点3.0以上を維持しています。都道府県別にみると、北海道7.55、富山県6.45、県鹿児島県5.61で高い値を示しています。

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咽頭結膜熱とは…

咽頭結膜熱とは、アデノウイルスが原因の感染症です。症状としては、38~39℃の発熱、ノドの痛み、結膜炎があります。5〜7日の潜伏期間の後に発症。まず発熱があり、頭痛、食欲不振、全体倦怠感とともに、咽頭炎による咽頭痛、結膜炎に伴う結膜充血、眼痛などがあり、3〜5日程度持続します。特に治療法はなく、対症療法が中心となります。子どもに多い感染症で、罹患年齢は5歳以下が約6割を占めているというデータもあります。生後14日以内の新生児に感染した場合は、全身性感染を起こしやすく、重症化する場合があることが報告されています。
しかし、アデノウイルスによって引き起こされる感染症は、咽頭結膜熱だけではありません。このウイルスには、様々な型があり、咽頭結膜熱のほかに、呼吸器症状・消化器症状などを引き起こす場合もあります。今回、ご紹介するのは、『感染症・予防接種ナビ』に寄せられた、21歳の大学生の女性からの経験談です。

21歳・新潟県

大学生女、21才です。
12月24日
大学のトイレで、友達に会いました。具合が悪そうだったので、一緒に帰りました。友達が帰る途中で嘔吐してしまい、その始末を手伝いました。
12月26日
朝起きて、熱っぽいなと思っていたら、37℃後半くらいの熱がありました。喉もイガイガして、咳と鼻水が止まりませんでした。痰もすごくて、黄緑色のが大量に溢れてきました。とにかく鼻にティッシュを詰めてマスクして、病院へ行きました。病院では、風邪でしょうねと言われ、風邪の時に出されるスタンダードな薬たちを出されました。夜になって、熱がどんどん上がって39℃を超えました。痰も咳も酷くなって、喉が乾燥してビリビリした痛みがありました。濡れマスクとかを何枚か重ねて着けていましたが、加湿器があればもっと良かったのになと思います。
12月27日
あまり眠れず朝を迎え、何度も鼻をかんだり痰で汚してしまったマスクを取り替えたりしていました。お腹も緩くなって、トイレに駆け込むことが増えました。だんだん水下痢になっていって、何度か嘔吐もしたと思います。熱は40℃を超えて、まだ寒気が治まらず、解熱剤が全く効いていないと思いました。さすがにやばいかもと思い、フラフラになりながら病院へ行きました。外に出るために着替えるのも難しく、パジャマの上に上着などを着て誤魔化した形です。病院でも何度もトイレに行って、ようやく診察を受けられました。声が出ないほどの喉の腫れで、筆談で診察してもらいました。症状が激しいということで検査になり、アデノウイルスであることが分かりました。しかし、特効薬は無いと言われ、追加で解熱剤を出されました。脱水と高熱のため、点滴をしてもらいました。
夜、解熱剤を飲んだのに熱が上がって、ベッドに横になったままマスクの中に嘔吐したり、あまりの辛さにパニクって過呼吸を起こしたりしていました。
12月28日
なんとか嘔吐物で窒息したりせず朝を迎えて、薬を飲んだりして過ごしました。食事はほとんどとれなくて、スポーツ飲料だけ飲んで生き延びてました。昼頃に、24日に会った友達から連絡がありました。友達も激しい症状で病院へ行ったところ、アデノウイルスだったということでした。夜、昨日よりは熱が上がらずに過ごせて、少し楽でした。代わりに、スポーツ飲料の飲みすぎなのか気分が悪くなり、しばらくのスポーツ飲料を飲めませんでした。
12月29日
熱は38℃台で落ち着きましたが、咳が酷くて声もまだ出ません。食料や飲み物が底を尽きたのでコンビニに行こうかと思いましたが、立ち上がっただけでフラフラしてしまったので諦め、宅配に頼ることにしました。大人でもアデノウイルスにかかる事ってあるんだな、というのが1つ発見でした。

感染症に詳しい医師は…

感染症に詳しい大阪府済生会中津病院院長補佐感染管理室室長の安井良則医師は、「直接診察した訳ではないので、分からない部分もあります。おう吐・下痢が続き、脱水などが気がかりなケースで、私は、入院してもいいと思いますが、診察した医師の方は、『若いから大丈夫』と判断したのでしょう。アデノウイルス陽性と判明したとのことですが、明らかに、アデノウイルスが原因で引き起こされる咽頭結膜熱と違う症状です。しかし、アデノウイルスには、様々な型があり、引き起こす症状も、様々です。一日も、早い回復を願っております。また、年末までの状況しか分かりませんが、年明けに起こった、能登半島地震の影響もあった地域に近い方だと思われます。ご無事をお祈りしています」としています。

咽頭結膜熱の予防法は?

アデノウイルスが引き起こす咽頭結膜熱の予防としては、感染者との密接な接触を避けること、流行時にうがいや手指の消毒を励行することなどがあります。消毒法に関しては、手指に対しては流水と石けんによる手洗い、及び90%エタノール、器具に対しては煮沸、次亜塩素酸ソーダを用います。消毒用エタノール(80%程度)の消毒効果は弱いとされています。感染力が強いためにタオルなどの共有は厳禁です。多くの人がさわるドアノブ、スイッチから感染することもあるので、流行時には消毒をする必要があります。保育所などではおもちゃの消毒も有効です。また幼児の感染が多い咽頭結膜熱ですが、治癒後も長時間、便のなかにウイルスが排出されることがわかっています。排便後、またはおむつを取り替えたあとの手洗いは石鹸を用いて流水で丁寧に行うことが重要です。

結膜炎など眼に症状がある場合は、眼科を受診

咽頭結膜熱の主な症状は、発熱、ノドの痛み、結膜炎です。安井医師は、「咽頭結膜熱の症状は、まず発熱があり、続いてノドの痛み、結膜炎を発症するとありますが、どの症状が強く出るのかは人それぞれです。特に眼の症状は小児科や耳鼻咽喉科では診られませんし、アデノウイルスの流行時期には別の血清型のウイルスが原因の『流行性角結膜炎』の場合もあるので、早めに眼科を受診する必要があります」としています。流行性角結膜炎で角膜に炎症が及ぶと透明度が低下し、混濁が数年に及ぶことがあります。また新生児や乳幼児では偽膜性結膜炎を起こし、細菌の混合感染で角膜穿孔を起こすことがあるので注意する必要があります。異変を感じたり、気になる症状があるときは、迷わず医療機関を受診しましょう。


引用
国立感染症研究所:「IDWR速報データ2023年第51週」「咽頭結膜熱とは」「アデノウイルスの種類と病気」「流行性角結膜炎とは」
厚生労働省:咽頭結膜熱について

取材
大阪府済生会中津病院院長補佐感染管理室室長 安井良則氏