3月も注意 3月も注意
2024年3月に注意してほしい感染症について、大阪府済生会中津病院の安井良則医師に予測を伺いました。流行の傾向と感染対策を見ていきましょう。

【2024年】3月に注意してほしい感染症!インフルエンザ・新型コロナ共にピークアウトの兆候も…要注意はRSウイルス感染症

【No.1】インフルエンザ
インフルエンザは、2024年第6週(2/5-2/11)は、前週に比べ増加に転じています。これは、流行の中心がA型からB型に置き換わってきていることが要因と考えられます。一方で、流行には地域差があり、大阪府などでは、患者報告数が頭打ちになり、ピークアウトの兆候もみられます。これまでの流行状況について、多少の増減はあるものの、国内のインフルエンザの患者発生数は、2023年9月以降現在に至るまで増加傾向が続いており、引き続き注意が必要と考えています。過去の例をみると、前年の12月までに、それほど流行していなかった地域が、年明けに患者発生数が急増する場合が多いです。インフルエンザは、インフルエンザウイルスを病原体とする急性の呼吸器感染症で、毎年世界中で流行がみられています。日本でのインフルエンザの流行は、例年11月下旬から12月上旬にかけて始まり、1月下旬から2月上旬にピークを迎え3月頃まで続きます。しかし、今季はシーズン入り前から、一定程度の患者報告数があり、例年の同時期に比べると高い水準でのシーズン入りとなりました。一方で、地域差や増加の幅など流行の動向がつかみにくいため、注意が必要です。主な感染経路は、くしゃみ、咳、会話等で口から発する飛沫による飛沫感染で、他に接触感染もあるといわれています。飛沫感染対策として、咳エチケットや接触感染対策としての手洗いの徹底が重要であると考えられますが、たとえインフルエンザウイルスに感染しても、全く無症状の不顕性感染例や臨床的にはインフルエンザとは診断し難い軽症例が存在します。これらのことから、特にヒト-ヒト間の距離が短く、濃厚な接触機会の多い学校、幼稚園、保育園等の小児の集団生活施設では、インフルエンザの集団発生をコントロールすることは、困難であると思われます。引き続き、注意が必要でしょう。

【No.2】新型コロナウイルス感染症
新型コロナ患者報告数は2024年第6週(2/5-2/11)時点で、前週から減少に転じました。全国的な流行は、間もなく、落ち着いてくると予測しています。国内の主流株であったEG.5とその派生株からなるXBB系統は、BA.2系統の派生株であるBA.2.86系統へ置き換わっています。BA.2.86系統は、スパイクタンパク質に従来のBA.2系統とは30箇所以上、現在主流であるXBB系統とは35箇所以上のアミノ酸配列の変異を有しており、抗原性が大きく異なることより、ワクチンや既感染からの免疫逃避に優れている可能性が高いことが指摘されています。米国CDCではBA.2.86からの派生株であるJN.1が国内で増加しつつあることをHP上で報告しており、日本国内においても、BA.2.86系統へ置き換わっています。流行は、今後、落ち着きをみせると思われますが、水準的には、減り切っていないため、2024年3月以降も、しばらく、患者発生動向には注意していく必要があると考えています。

【No.3】A群溶血性レンサ球菌咽頭炎(溶連菌感染症)
A群溶血性レンサ球菌咽頭炎(溶連菌感染症) は、学校・幼稚園・保育園などでの流行が多くみられます。幼稚園・保育園・小学校など集団生活の場で、流行することなどから、注意が必要です。患者報告数も、2024年第6週(2/5-2/11)時点で、高い水準を維持しており、春休みに入る前まで、一定程度の報告数は出てくるものと予測しています。特に、小学校低学年のお子さんや幼稚園・保育園のお子さんは、注意が必要でしょう。溶連菌感染症は、例年、冬季および春から初夏にかけての2つの報告数のピークが認められています。保育所や幼稚園の年長を含め、学童を中心に広がるので、学校などでの集団生活や、きょうだい間での接触を通じて感染が広がるので、注意しましょう。感染すると、2~5日の潜伏期間の後に発症し、突然38度以上の発熱、全身の倦怠感、喉の痛みなどが現れ、しばしば嘔吐を伴います。また、舌にイチゴのようなぶつぶつができる「イチゴ舌」の症状が現れます。まれに重症化し、全身に赤い発疹が広がる「猩紅熱(しょうこうねつ)」になることがあります。発熱や咽頭痛など、新型コロナの症状と似ており区別がつきにくいため、症状が疑われる場合は速やかにかかりつけ医を受診しましょう。主な感染経路は、咳やくしゃみなどによる飛沫感染と、細菌が付着した手で口や鼻に触れることによる接触感染です。感染の予防には手洗い、咳エチケットなどが有効です。

【No.4】咽頭結膜熱
咽頭結膜熱の患者報告数は、2023年12月に過去最高の流行をみせました。感染症の動向を、長年に渡り調査・分析していますが、このような動きは、今までありませんでした。流行は、2024年に入り、少し落ち着きをみせ始めましたが、しばらくは注視が必要です。咽頭結膜熱は、アデノウイルスを原因とする感染症です。症状は風邪とよく似ていますが、発熱、咽頭痛、結膜炎です。発熱は5日間ほど続くことがあります。眼の症状は一般的に片方から始まり、その後、他方に症状があらわれます。高熱が続くことから、新型コロナウイルス感染症とも間違えやすい症状です。吐き気、強い頭痛、せきが激しい時は早めに医療機関に相談してください。最近では、アデノウイルスの検査キットが普及したことも手伝い、発熱・咽頭痛・結膜炎の3つの症状が一度に出ない場合は、咽頭結膜熱ではなく、「アデノウイルス感染症」と診断されることもあります。感染経路は、主に接触感染と飛沫感染です。原因となるアデノウイルスの感染力は強力で、直接接触だけではなくタオル、ドアの取っ手、階段やエスカレーターの手すり、エレベーターのボタン等の不特定多数の人が触る物品を介した間接的な接触でも、感染が広がります。特異的な治療方法はなく、対症療法が中心となります。眼の症状が強い時には、眼科的治療が必要となることもあります。予防方法は、流水・石鹸による手洗いとマスクの着用です。物品を介した間接的な接触でも感染するため、しっかりと手を洗うことを心がけてください。

【要注意】RSウイルス感染症
RSウイルス感染症が年明けから、徐々に増え始めています。大きな流行ではないですが、気がかりな動きです。RSウイルス感染症は、流行期間に地域差があるため、何とも言えないですが、3月中に増加してくるのではないかと予測しています。これまでの傾向としては、関西地方での流行は、比較的早く、その後、時間をかけて、ゆっくりと東日本へ流行の中心が移っていきます。2024年の流行がどのようになるか、その規模などの予測は困難ですが、注意してほしい感染症です。RSウイルス感染症は、病原体であるRSウイルスによっておこる呼吸器感染症です。潜伏期間は2~8日、一般的には4~6日で発症します。特徴的な症状である熱や咳は、新型コロナウイルス感染症と似ており、見分けがつきにくいです。多くの場合は軽い症状ですみますが、重い場合には咳がひどくなり、呼吸が苦しくなるなどの症状が出ることがあります。RSウイルス感染症は、乳幼児に注意してほしい感染症で、特に1歳未満の乳児が感染すると重症化しやすいです。お子さんに発熱や呼吸器症状がみられる場合は、かかりつけ医に相談してください。感染経路は、飛沫感染や接触感染です。お子さん向けのワクチンはまだ実用化されていないため、手洗い、うがい、マスクの着用を徹底しましょう。家族以外にも保育士など、乳幼児と接する機会がある人は特に注意が必要です。

■感染症に詳しい医師は…
大阪府済生会中津病院の安井良則医師は「3月に最も注意してほしい感染症は、インフルエンザを挙げました。流行の中心がA型からB型となったことで、既にA型に感染した方も、B型に感染し発症する可能性もあります。どの程度まで流行するかは予測が困難ですが、ピークアウトの兆候もみられるため、しばらくは注視が必要です。新型コロナウイルス感染症についても、同様にピークアウトの兆候がみられます。しかし、高齢者を中心に入院される方は、現在も、一定数いらっしゃいます。新型コロナと診断された方の主な症状は、咽頭痛・発熱・倦怠感・頭痛などですが、中には、発熱の症状が現れない方もいらっしゃいます。症状が当てはまらないケースであっても感染していないとは言い切れません。体調不良を感じた場合は、医療機関を受診することを勧めます」としています。

取材
大阪府済生会中津病院院長補佐感染管理室室長 安井良則氏