劇症型は急激に悪化! 劇症型は急激に悪化!
国立感染症研究所の2024年第12週(3/18-24)速報データによると、この週の「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」の報告数は25人。今年に入っての累積は556人で、去年(2023年)の累積報告数908の約6割に達しています。
【マンガ感染症ニュース】A群溶血性レンサ球菌咽頭炎(溶連菌感染症)・前編

劇症型溶血性レンサ球菌感染症とは?

「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」は「人食いバクテリア」とも呼ばれる感染症で、主に溶連菌感染症と同じA群溶血性レンサ球菌に引き起こされ、免疫不全などの重篤な基礎疾患をほとんど持っていないにもかかわらず突然発病する例があります。初期症状としては四肢の疼痛、腫脹、発熱、血圧低下などで、発病から病状の進行が非常に急激で、発病後数十時間以内には軟部組織壊死、急性腎不全、成人型呼吸逼迫症候群(ARDS)、播種性血管内凝固症候群(DIC)、多臓器不全(MOF)を引き起こし、ショック状態から死に至ることも多いとされています。近年では妊産婦の症例も報告されています。

感染症に詳しい医師は…

感染症に詳しい大阪府済生会中津病院院長補佐感染管理室室長の安井良則医師は、「当院でも最近、劇症型溶血性レンサ球菌感染症の方が2名入院しました。溶血性レンサ球菌が何らかの形で体内に入り、血液を通して、全身に感染が広がったものと考えられます。一人の方は80歳代の方なのですが、心臓のペースメーカーを入れていて、とても危険な状態でした。これだけ劇症型溶血性レンサ球菌感染症の患者さんが増えているのは、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎(溶連菌感染症)の流行が影響していると考えています。お子さんが発症することが多い溶連菌感染症ですが、これほどの水準で流行が継続すると、大人も子どもも溶血性レンサ球菌と接する機会が増え、傷口やおできなど皮膚から感染し、筋肉から全身に急激に広がってしまうのが劇症型溶血性レンサ球菌感染症です。溶連菌感染症は新型コロナウイルスが流行していたこの3年間大きな流行はありませんでしたが、現在では過去最大の流行が続いています。溶連菌感染症の流行とともに、劇症型溶血性レンサ球菌感染症の流行もしばらくは続くものと予測しています」としています。

A群溶血性レンサ球菌咽頭炎は、新学期が始まると再び増加?

国立感染症研究所の2024年第12週(3/18-24)速報データによると、それまで4週連続で増加していた報告数が減少に転じ、全国では3.67と3週ぶりに4を下回りました。しかし、安井医師は「溶連菌感染症は幼稚園・保育園、学校などで感染が広がるので、春休みの期間は報告数が減少する傾向があります。ですので、新学期が始まると再び上昇傾向になると思われます。例年夏に向けて感染者が増加しますので、まだまだ溶連菌感染症に警戒をしていかなければならないと考えています」と語っています。

A群溶血性レンサ球菌咽頭炎

A群溶血性レンサ球菌咽頭炎は、レンサ球菌という細菌を病原体とする感染症です。略して「溶連菌感染症」ということもあります。主に感染している人の口から出る飛沫(しぶき)などを浴びることによって感染する「飛沫(ひまつ)感染」や、おもちゃやドアノブなどに付着している病原体に触れた手で口や眼などから感染する「接触感染」、そして食品を介して「経口感染」する場合もあります。主な症状としては、扁桃炎(へんとうえん)、伝染性膿痂疹(のうかしん)、中耳炎、肺炎、化膿性関節炎、骨髄炎、髄膜炎など、さまざまな症状を呈します。いずれの年齢でもかかりますが、学童期の子どもが最も多く、学校などでの集団感染、また家庭内できょうだいの間で感染することも多いとされています。

溶連菌感染症の予防と治療

予防するのは難しいですが、飛沫感染・接触感染対策として手洗いなどの一般的な予防法を励行することが大切です。また、発症した場合は抗菌薬による治療が可能で、多くの場合は後遺症もなく治癒するとされています。ただし、合併症を予防するために、症状が治まっても決められた期間抗菌薬を飲み続ける必要があります。溶連菌感染症の症状が疑われるときは、早めに医療機関を受診することが重要です。

引用
国立感染症研究所:IDWR速報データ令和6年第12週(3/18-24)、溶血性連鎖球菌感染症2012年〜2015年6月、劇症型溶血性レンサ球菌感染症とは
子ども家庭庁:保育所における感染症対策ガイドライン(2018年改訂版)

取材
大阪府済生会中津病院院長補佐感染管理室室長 安井良則氏