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東日本への拡大懸念 東日本への拡大懸念
 国立感染症研究所の感染症発生動向調査週報2023年23週(6/5〜11)によると、RSウイルス感染症の患者の定点あたり報告数は2.64。前週からは0.5ポイント増で、5週連続の増加となっています。都道府県別では、山口7.16を筆頭に、岐阜、兵庫、奈良、和歌山、広島、愛媛、福岡、大分、宮崎、鹿児島で3を超えています。

RSウイルス感染症の流行は関東へ?

 また、23週のデータによると、前週との比較で千葉は1.6倍に。東京・神奈川・埼玉も増加傾向にあり、関東地方でも流行拡大の兆しがあります。

感染症に詳しい専門家の医師は・・・

 感染症に詳しい大阪府済生会中津病院の安井良則医師は、「私の勤務している大阪は、早めに流行の波が来ましたが、前々週をピークに減少傾向にあります。しかし報告数はまだまだ西日本の県が多くなっています。一方、東海や関東で増加する県が多くなっており、もしもこのまま増えていくと、全国的な流行になることも懸念されています。RSウイルス感染症は、特に乳児には重症化のおそれがありますので、これからも警戒が必要だと思います」と語っています。

RSウイルス感染症とは?

 RSウイルス感染症は、RS(respiratory syncytial)ウイルスを病原体とする、乳幼児に多く認められる急性呼吸器感染症です。生後1歳までに50%以上、2歳までにほぼ100%の人が感染するとされています。初感染の場合、発熱や鼻汁、咳などの上気道症状が出現し、うち約20〜30%で気管支炎や肺炎などの下気道症状が出現するとされています。重篤な合併症としては無呼吸発作、急性脳症などがあり、生後6か月以内で最も重症化するとされています。生後1か月未満の子どもが感染した場合、非定型的な症状を呈するために診断が困難な場合があり、突然死につながる無呼吸発作を起こすことがあります。

 感染によって重症化するリスクの高い基礎疾患を有する子ども(特に早産児や生後24か月以下で心臓や肺に基礎疾患がある小児、神経・筋疾患やあるいは免疫不全の基礎疾患を有する小児など)や、生後3か月以内の乳児への感染には特に注意が必要です。

岐阜でも急増

 岐阜では、23週の定点当たり報告数は4.11。前週から約1.5ポイント増加しました。岐阜県で感染症の調査を行なっている岐阜県感染症情報センターに話を聞きました。

 「美濃加茂市を中心とする可茂地域では、定点当たり報告数は11を超えました。RSウイルス感染症は警報レベルの基準がないのですが、10を超えるとかなり大きな流行である捉えています。これからも学校や幼稚園・保育所などを中心に県内各地に流行が広がっていく可能性もあり、まだまだ注意が必要だと考えています。岐阜県感染症情報センターでは「ぎふ感染症かわら版『今年もRSウイルス感染症に注意しましょう』」を5月末に発行し、保健所や医療機関、保育施設などにメールで注意喚起を促しています。一昨年、昨年も流行がありましたし、赤ちゃんや基礎疾患を持つ小児、高齢者が感染しないよう、予防の方法などをお知らせしています」

RSウイルス感染症には、特効薬もワクチンもない

 RSウイルス感染症には特効薬はなく、感染した場合、治療は基本的には症状を和らげる治療=対症療法を行います。またワクチンはなく、飛沫感染と接触感染に対する予防が有効です。咳などの呼吸器症状がある場合は、飛沫感染対策としてマスクを着用して0歳児、1歳に接することが大切です。接触感染対策としては、子どもたちが日常的に触れるおもちゃ、手すりなどはこまめにアルコールや塩素系消毒剤などで消毒し、流水・石鹸による手洗いか、アルコール製剤による手指衛生が重要です。

まわりの人がうつさないように気をつけることが重要

 重症化しやすい乳児や基礎疾患のある子どもにRSウイルスをうつすのは、まわりの大人やきょうだいです。RSウイルスは生涯に何度も感染しますが、大人にとってはただの風邪か、無症状の場合もあります。特にRSウイルス感染症が流行している地域では、自分が感染している可能性もあると思って、乳幼児に接してください。

引用
国立感染症研究所:感染症発生動向調査週報2023年23週(6/5〜12)
厚生労働省HP:RSウイルス感染症Q&A
岐阜県感染症センター:ぎふ感染症かわら版(令和5年5月25日)

取材
大阪府済生会中津病院感染管理室室長 国立感染症研究所感染症疫学センター客員研究員 安井良則氏
岐阜県感染症情報センター(岐阜県保健環境研究所)